著作権侵害が発生、権利行使はどう行われる?

さて、ペンデュラムのアートブックに掲載されている画像に著作権侵害が発生しているのでは、とファンから指摘があり、3週間が経ちました。
前回のエントリーでは、問題の起こったであろう経緯と、法的にどう問題がありリスクになるのか、そして問題発生を今後しないための対策をまとめました。
そして文中で何度も書いていた通り、”指摘を適切にし、公式にも適切な対応をしてもらう”が目的でありました。

しかし今現在、公式から適切な対応はなされているとは判断できない状態が続いています。
デジモンウェブの公式ツイッターの稼働が停止しているため、なおのこと、情報が不足していることも含めて、不安が大きくなっているように思います。

前回、対応についてはここで書くべきではないと判断し、割愛しましたが、ここまで問題が停滞により長期化している今、少しでも整理できる部分を整理した方がいいように思えます。故にまた長ったらしい文章をだらだらと書かせていただこうと思います。

公式はどんな対応が可能だったのか

俺が問い合わせたのは問題が発覚した十一月二十三日(金)の八日後、十二月一日(土曜)になります。
しかし、俺以外にもそしてより早く問い合わせた方も多々いらっしゃると思います。
また、公式側がツイッターでのエゴサーチなりなんなりを行い、二十三日時点で著作権侵害が指摘されていることを把握していた可能性があります。
加えて、デジモンウェブの公式ツイッターは、三十日のデジモンウェブ図鑑更新の告知(このツイートは自動投稿クライアント経由であることを確認済み)以外は二十二日を最後に更新を途絶えています。
故に、まずは早ければ二十三日(金、祝日)、遅くても二十六日(月曜日、担当部署営業日と想定)には事態の把握を大なり小なり把握していた、という仮定の基でお話します。
では、公式は事態を把握し、どんな対応が望ましかったのでしょうか。

まず、真っ先にするべきは権利者への事情説明と謝罪、そして今後の対応についての協議の開始です。
これは製品開発部署というよりかは、総務部や法務部を通じての話になりますから、部署単位というよりは会社全体の動き(ある程度大きな部署だとその中にまた法務総務担当がいる可能性もあるけれど)になると想像します。

次に、権利者との話がまとまったら、それに基づいてアナウンスをする必要があります。
ダメージが大きい場合ケースでは回収になりますし、そうでない場合は謝罪文と出典元の掲載だけで済む話になるかもしれない。
そこそこダメージを追う場合は、出典元を書いたシールを正誤表のように配布する、なんて場合もあるかもしれません。
しかし、ここに関してはどのような話し合いになるかはぶっちゃけ推測したところで、可能性がどれくらい、と論じることはできないし、無意味です。(故に前回も割愛したわけですが)

対応が進んでいるかはブラックボックスのまま時間は過ぎる

ファンとしては、大なり小なり気を揉むという方が多い事でしょう。
公式サイドが著作権侵害、やはりここだけ取り出すとインパクトが悪い方にでかすぎるわけですし。(インパクトに引っ張られないよう前回企業等における著作権意識というか風土の問題としてまとめたつもりではありますが)
気を揉む方の中でも、今後の対応次第ではないかと冷静にことを受け止めている方も多々いらっしゃると思いますが、その対応に関しても全く情報が入ってこないと来る。こりゃあ参った。

対応されなかった場合はどうなるのか

ここが今回一番書きたかった肝。
とにかくやべーよ、駄目だよ、と不安感と正義感からくる義憤で発言されている方がちらほらみられる中、そもそもどういうリスクがあるのかって理解されての発言なのか疑わしいようなものも含まれるので、整理したいと思います。

著作権法の構造と運用を知る
では、この問題の核である著作権とそれを定義する著作権法とは何なのか、すごくざっくりとお話していきます。
著作権とは、著作物を作った人間や、その人間から権利を譲渡された人間、創作に関わった人間がが持つ権利のことをまとめて指します。知的財産権の一種ですね。
著作物とは、思想や心情を表現した創作物のことで、美術品なり小説なりマンガなり音楽なりが身近な例ではないでしょうか。
著作権は内容を三つに大別できます。
著作者人格権、公表や名前の表示の有無やその仕方、勝手に作品をいじられないといった権利です。専一性、つまり譲渡や相続はされません。
著作財産権、コピーやアップロード、レンタルや演奏や上映といった利用をする権利。譲渡や相続がされる場合があります。
著作隣接権、放送事業者やらレコード会社やら演奏者やら演者など、著作物を広めることに一躍買っている方々が持つ権利。財産権と人格権に当たるものがある。今回はあんま関係ない。

著作権法で定義されている権利は大体こんな感じ。
押さえておきたいポイントは、著作権法の柱はこうして「作者や関係者はこういう権利を持っています」と書かれています。
つまり、その権利は作者が独占している権利であって(知財の産業分野の特許なんかもまさにそうですが)、その権利で規定されている行為を権利を持たないものが勝手に行うと権利侵害になる、こういう筋立なのですね。

実際の侵害内容はどうなるか
著作権侵害と巷では声高に言われておりますが、著作権と言うのは権利の種類が本当に大変多くありまして、大別しただけでも三種類あるって話はしましたが、著作者人格権で三つ、著作財産権で十一つ権利が定められています。
著作者人格権は、
第十八条 (公表権)
第十九条 (氏名表示権)
第二十条 (同一性保持権)

著作財産権は、
第二十一条 (複製権)
第二十二条 (上演権及び演奏権)
第二十二条の二 (上映権)
第二十三条 (公衆送信権等)
第二十四条 (口述権)
第二十五条 (展示権)
第二十六条 (頒布権)
第二十六条の二 (譲渡権)
第二十六条の三 (貸与権
第二十七条 (翻訳権、翻案権等)
第二十八条 (二次的著作物の利用に関する原著作者の権利)

で、件の企画書で問題とされている権利侵害は二か所あります。

一か所目、『進化!』の煽りとともに掲載されているシャウトモンX4Kの画像。
個人製作のガレージキットを、製作者が撮影したもの。
影や尻尾が削られている。
侵害している権利:複製権、同一性保持権、氏名表示権
権利者:株式会社バンダイ(原著作者として)、ガーレジキット製作者

二か所目、『20th武器型Armsデジモン登場!』の煽りと共にあるシルエット画像
グッドスマイルカンパニー製作の『ねんどろいど キャプテンアメリカ』の製作決定報告の際の画像。黒塗りシルエットに加工されている。(シルエットに加工しても、厳密な判断では権利侵害に該当する)
侵害している権利:複製権、同一性保持権、氏名表示権
権利者:MARVEL(原著作者として)、グッドスマイルカンパニー


著作権侵害を行ったものへの権利者の権利行使および罰則

さて、侵害内容を整理したところで、権利侵害したらどうなるのかを整理します。既に著作権法が刑法でも民法でもないというお話をしましたが、著作権法では、権利侵害に対して権利者が民事訴訟で請求できることや、刑事訴訟を行えることが定められています。また、権利侵害の発生に伴い、民法上の規定や刑法上の規定も一部鑑みることになります。ただし、民事訴訟はそもそも権利者が起こすものですし、刑事訴訟もまた、著作権法においては一部の例外を除き、権利者の告訴がないと公訴がなされない(いわゆる親告罪)ということになっております。
では、訴訟でどのような請求や罰則がなされるのかをまとめていきます。

民事訴訟
差止請求
侵害している現状を止めろ、あるいは予防しろって話。違法アップロードだったら削除しろ、DVDに映像中に侵害があれば発売中止や回収しろってことになります。今回は受注生産の書籍なので、差止請求をされた場合は回収することも想定されます。権利者が全ての権利侵害に対して請求可能。

損害賠償請求
権利侵害によって損した分を保証しろって話。有償なものが無料でばらまかれていたりとかしたら商売あがったりになるので、そこで損した分もらわないとって話。今回の件で損害賠償が発生するかどうかは、正直画像使用許諾の際にロイヤルティーとっていたら、位しか俺の頭では想像できません。

不当利益返還請求
権利侵害行為によって稼いだお金を返せって話。例えば有償著作物をアフィリエイトブログに違法にアップしてPV集めながら金稼いでいたら、そこで稼いだ分は返そうねって話。
別に侵害した画像が目玉で稼いでいたわけではなく、元々受注生産なため、ここでも大きな額が発生する想像は俺の頭ではできない。

名誉回復等の措置
権利侵害によって名誉を傷つけられたり不当な評価を被ったら、侵害したものに名誉回復させられるって話。自分の描いたイラストを勝手に別人が自作の絵ですとか、もっと身近な例だとパクツイとかそういうので、著作者人格権や隣接権の一部である実演家人格権が対象。
今回のケースだと、出典元をちゃんと明記した報告やら、やっぱ正誤表的なシールなりがその対応になるのかなと。あと謝罪。

刑事訴訟
侵害内容と侵害したのが法人か否かによって罰則内容が変わります。
今回は、
複製権侵害→法人には三億円以下の罰金、法人内の侵害行為実行者には十年以下の懲役または一千万円以下の罰金著作権法第百十九条第一項、第百二十四条第一項第一号)
同一性保持権→法人、法人内の侵害行為実行者いずれにも、五年以下の懲役または五百万円以下の罰金著作権法第百十九条第二項第一号、第百二十四条第一項第二号)
氏名表示権→法人、法人内の侵害行為実行者いずれにも、五年以下の懲役または五百万円以下の罰金著作権法第百十九条第二項第一号、第百二十四条第一項第二号)
となります。
ただし、刑事罰の場合、刑法第三十八条により、その故意性の有無によって処罰がなされない、または減刑される場合がありますので、前回まとめたように、故意性を認めるのは難しいあたり、実際刑事告訴がなされても、上記の罰則がフルスペックで来ることはかなり考えづらいと思います。

権利行使の重さと可能性の大きさをどう評価するか

さて、権利行使による民事、刑事の訴訟でどうなるかまとめてきました。
各項目のものでデジモン公式側にダメージがあるのは、民事訴訟での差止請求によるアートブックの回収と刑事訴訟による罰則の適用になると思います。
損害賠償や不当利益返還請求でも額が大きくなる可能性は考えづらく、名誉回復等の措置は、元より訴訟が起ころうと起こっていなかろうとやるべきことです。

ただ、民事訴訟するにしたって訴訟は時間もお金も使います。
刑事訴訟に関しても、そもそも刑事罰の適用が難しいと判断されるような事案だと不起訴処分になる可能性もあります。
それにそもそも、慣例として訴訟前に権利者が権利侵害者に警告をするわけですし。
最初の方で言い忘れましたけど、日本の著作権法って軽微な(今回のが軽微なものといいたいわけじゃない)侵害は、訴訟を起こす方が面倒くさいから見過ごしてしまう、いわゆる権利侵害は起こっているのに権利者が権利行使しない”グレー状態”が多いんですよ。
もちろん社会的立場のある法人が、しかもキャラクタービジネスする会社が、侵害行為をしているのは大変な問題ではあるわけですが。

実際公式はどう対応しているのか。

全く動いていない公式に大して不安が募りますよね。そんな不安を解消するために、人間ってやつはつい想像して納得しようとしてしまうもんなんですが、現状から想像されるもんは俺の頭では以下のものかなと。

1、公式が無視を貫いている
問い合わせはどこ吹く風、というパターン。
デジモン公式自らが権利者に連絡を取った場合に謝罪文の掲載、回収に至ると想定しているとします。
そして、権利者が権利行使により民事訴訟前に権利者から警告が来る、刑事訴訟のリスクは低い、と公式がリスク評価をしている、とします。
その場合、動いても動かなくても結果は同じであり、動かないで何も起こらなければそれが一番、と考えている場合は、何も対応しない、がそれなりの説得力を持ってしまうことになります。
ただし、これは既にお問い合わせがなされているのがツイッターで指摘され、キャラクタービジネスを行う会社としてはあまりにも意識が低すぎるので、このパターンは考えたくないです。

2.公式が社内での対応をまとめきれていない
まず事態の把握をどこまでできているのか、把握した上でどう対応すればいいか判断できているのか、これがまず社内でなされていない可能性です。
ぶっちゃけこれも想像したくないですけれど、権利侵害するあたり、著作権法に関する認識って甘いよう思えてならないので、そういう状態で権利侵害って言われても、混乱して何をどうすりゃいいかってとこで詰まってる可能性もあるなあと。
また、社内でどこまで情報共有が出来ているのかが怪しいものに思えます。
俺が仮に法務部なり知財管理部にいる人間で、今回の事態を把握した場合、なるたけ権利者に角が立たないような経緯説明をし、温和な形での和解を目指すよう思えます。それがなされていないってことは、社内でまだ情報共有できてなくて混乱している可能性もあると思います。

3.水面下で行動はしている
一番こうあって欲しい説。ただ、ガレージキット製作者は俺が見える範囲では公式から何か連絡があった様子はないので、ちょっとここもわからない。
ねんどろいどのシルエットに関しては、俺個人では得られる情報はなし。問い合わせしたって、「確認します、ご報告ありがとうございます」のテンプレが返ってきそうだしなあ。
グッドスマイルカンパニー通じて話をしていることだけでも祈るばかりです。

俺個人が望むこと

ぶっちゃけ、キャラクタービジネスをやる会社としてお行儀の悪いのは間違いないんですが、実際の損害であるとか故意性や悪質性を考えた時、重大かって意味ではちょっと首をかしげる事案なので、権利者に話を通せば「めんどくせーから不問で」とかにもなる可能性が十分あると思うんですよ。
だから、デジモン公式サイドには一にも二にもまず権利者に連絡を取って経緯説明と謝罪をして、早い段階で問題の解消に取り組んでもらいたい、そしてできるなら解消後にお問い合わせへの返答という形でいいから、問い合わせた人間にのみでもいいから、その報告が欲しい。キャラクタービジネスやる会社として、仮に問題解消しても大っぴらに「ミスしてましたさーせん!でも許してもらえました!」とか言いづらいってのもあるだろうし。

あとファンの言動と動きについて。カップ焼きそばに虫が混入していたのを画像アップして炎上に発展した事例が頭をよぎりました。
いいじゃん、別に燃やす方向に行かなくても。問い合わせて、それでも返答来なくてじれているってならわかるんですけど、俺の観測できる範囲では初動から烈火の如く腹を立てていらっしゃる方がいらっしゃったわけで。
ここまでつらつらつらつらとホンットーにめんどくせーと思いながらまとめてきたわけですが、著作権法ってマジ面倒くさいんですよ。だから著作権法の侵害一つとっても、なんでもかんでも正義の剣みたいにふるうもんじゃねえんすよ。
著作権法刑事罰が規定された法律なわけですが、法体系としては刑法やら行政法やらの”公法”ではなく、民法や商法などと同じ”私法”に入るわけで、当事者間の話し合い、示談による解決を中心にしたっていいんですよ。
欲しい対応がなされず焦れる気持ちはよくわかるからこそ、怒りの発露をしたって仕方がないので、情報共有をしてちょっとでもいい風向きになれればいいなと思います。今回はこうしてつらつらつらつらと書いた理由はそれです。
あともし公式サイドの方がこれを見ていたら、ちょっとでも望む対応に近づいてもらえればと思います。